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始発電車に揺られ三時間。
目が覚めるとヒマワリ畑が目に飛び込んできた。
懐かしい風景だ。上京してから彼氏や遊びに夢中で何年かぶりの帰郷。
ゆっくり足元をみて歩くこともない生活を送っていると田舎の空に浮かぶ入道雲が新鮮に感じる。
バスに乗るのは勿体無い気がして歩いて帰ることにした。
家に向かう途中、通っていた小学校に差し掛かると日焼けをした小学生たちが元気にラジオ体操をしている。
足を止めてみていると、『おーい!』急に後ろから呼び止められた。
振り返ると見覚えのある青年が笑顔で立っている…
彼だ!
高校生時代、三年間密かに思い続けた片思いの相手。
近くの喫茶店にはいり昔よく食べたかき氷を注文し、彼の家族や高校時代の友達のこと、
お互いの仕事のことなど色んな話をした。
何年も会っていなかったのに何も変わらない笑顔。
いちごのかき氷がもっと好きになった。
Saoora_Skytree |
2011/07/12
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「おい‼ボーッとしてないでコレ貼ってこい!」
店長に渡されたのは《冷やし中華始めました》のチラシだった。
大学生の僕は、親からの仕送りはあるものの、女にモテたくて買った中古のオープンカーのローン返済の為、バイトを掛け持ちしている。
今日はラーメン屋だ。
「こんなベタなチラシ今さらいらねぇだろ…」
店長に聞こえないようにつぶやきながら、僕は昨日の夜のことを思い出していた。
僕は大学の憧れの先輩と夏祭りに出掛けた。
無理して買ったオープンカーが役に立つ時が来たのだ。
先輩は浴衣姿で、透きとおるようなその白いうなじは、少し汗ばんでいた。
身体の芯から溶けていきそうな熱帯夜、ルームミラーに吊り下げた透明なビニール袋の中では、夏祭りで取ってきた金魚が2匹揺れていた…
「おい‼少し傾いてねぇか⁈」 店長の怒鳴り声で、僕は現実に引き戻された。
小さな溜め息をつき、僕はチラシを貼り直した。
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『僕は海が好きだ。』
背中の肉が醜いほど垂れ下がったデブな男は、細いすねを水着に通した。
花火が鳴り響く花火大会の真夏日、デブな男は一人鏡の前でうなだれる。
自分のこのすねだけやたらと細い体型がむかつく。
まるで血を腹一杯に吸った蚊のようだと揶揄してるのだ。
鏡に映った汚いテーブルの上に、昨日地元の友達と開いたパーティーで残ったBBQ のソーセージが目に付いた。
デブはいつもながら自分と葛藤し始めた。
…花火の音が鳴り止んだ。
ソーセージを頬張った後、デブは思うのだ。
『自分は自己管理ができないのだ』と。
そして今年も短い夏が終わるのだ。
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